14 井上 萌
1月の終わりに「美術はあと三時間だな」と言われました。今まで半年間ずっと描いてきた自画像が終わってしまうかと思うと、淋しい気がしました。
最初は、自分を描くということに抵抗がありました。でも、それは何故か分からず嫌々、鏡を見て目に見えるありのままの自分を描こうと思っていました。目に見えるそのままの色をパレッドの上で作り塗っていきました。先生は、最初から絵に関する指導よりも人生について語るようになりました。私は、絵を描きながらいろんなことを考えました。
中でも、最も印象に残ったのは、宮内君の話でした。先生と宮内君が授業中に着々と計画をしている時は、宮内君が本気で実行するとは思っていませんでした。しかし、計画が次第に細かくなっていき、日時まで決まってきました。その日は、私も日展に行こうと思っていた日でした。雨が降っていたので、延期になっただろうと思っていましたが、電車で日展に行くと、レインコート姿の雨で髪が濡れている宮内君に会いました。
信じられませんでした。後日の授業で、先生は宮内君のことを褒めていました。「あいつは、スゴイ。勇気のある奴だ!」と。私もスゴイと思いました。雨にもかかわらず、見知らぬ地まで一人で自転車で行くなんて勇気あると思います。私は、電車ですら一人で見知らぬ地までいけないでしょう。自転車は、体力も気力も必要で、疲れても自分に負けないで上野の美術館までこぎ続けたかと思うと、やはり彼は強いなぁと思います。
今まで、いろんな話を聞きながら絵を描き続け、時には美術室まで足を運ぶのも嫌になり、鏡を見ないで自分の感覚や気分で色を付けていた時もありました。しかし、改めて自分の顔を見つめ直して見ると、今まで気付かなかった顔の凹凸に気づき 、先生のお陰で、自分を考え直すことで自分の内側に向き合うことが出来ました。自分が自分を描くのに抵抗があったのは、自分の内面と向き合うのが怖かったからだったのだと気付きました。まだまだ自分は、未熟で分からないことでいっぱいですが、宮内君のような勇気を持って生きていきたいです。