29 前野 辰弥
僕は、初めて三十時間以上もかけて、絵を描いた。それにより、短い時間で描いていたときでは感じられなかったことを感じることができた。僕が、最も感じたのは、絵とは人生と似ているということだ。絵の完成までの経路を言うと、僕は今まであまり美術に関して興味を持っていなかったので、最初の十時間は何をしていいのかわからずに戸惑い、悪戦苦闘した。しかも、周りを見れば、僕の絵と比べものにならないくらい上手く、正直言うと、あまり翼工房に行きたくなかった。ところがある日、小牧先生に指摘を受けて僕は変われたと思う。それ以降、どんどん絵が良いほうへ変わって、しかも楽しんで絵を描くことができたのだ。変わらないままの自分だったら達することのできない絵を描くことができた。人生という視点からみると、最初の十時間は決して無駄ではなく、むしろ何かをきっかけにして急成長するための時間だったと思う。だから、将来に大きな壁に当たってしまったときは、何かきっかけをつかもうと根気強く在りたいと思う。
あと、絵を描いているときに先生から色々なことを学び、そのことは、僕の絵を良くさせたと思う。先生はほとんど毎時間、絵のこと以外についても僕たちに教えて下さった。なかでも印象に残っているのを二つ挙げようと思う。まず一つ目は、「土浦一高の百年の伝統」についてだ。僕が、土浦一高を受験したのは、伝統校であるからという理由ではなく、茨城屈指の進学校であるからという理由だった。だから僕は、土浦一高が伝統校であるという意識を持っていなかった。しかし、先生が話されて僕は気付き、今日の一高生は伝統を壊すような非常識なことをしていると思った。一高の服装の乱れなどはこういった意識を持っていないからである。そして二つ目は、「一生ものの勉強をする」ということだ。僕は今までは、学校の勉強だけしかせず成績も上位だったので満足していた。しかし、一生ものの勉強をするという大事さを知り、成績が上位であると満足していた自分がとても愚かだったと思った。こういうことも教わらなかったら、おそらく骨太な人間にはなれなかっただろうから。本当によかったと思う。
最後に、美術を選択して本当に良かったと思う。選択したときは、美術が絶対やりたいと思っていたわけではなく、音楽よりも美術のほうが好きだし、成績も音楽より美術のほうが良かったからという軽い理由だった。だが、一枚の絵を三十時間以上という長い時間描いたことを振り返ってみて、今もう一度選択しろと言われたらまた美術を選ぶだろう。絵が本当に好きだし、絵を描くことによって自分を成長させたいから。