3 小島正太郎
絵が好きだ。そんな単純な理由で、僕は芸術の選択で美術を選んだ。この選択が、僕のことを大きく変えることになった。僕は芸術の授業で、小牧幹先生と出会い、そして多くの事を学んだ。先生は、僕たちに美術を通して「人のあり方」を教えてくださった気がする。
自画像を描き始めてから十時間ほど経った頃、僕の絵はどんよりとした、暗い色で染まっていた。きっとその時は、何かに迷っていて伸び伸びと描くことが出来なかったのだと思う。そんな時、先生の「もっと自由に、思いきってやってみなよ」という言葉を思いだしてナイフを手にとった。僕は、美術は筆でやるものだと思っていて、ナイフで描くということに抵抗があり、それまではあまり使うことがなかった。しかし自分の中に、何か変えないといけないという気持ちがあり、ナイフで絵を描くという新しい世界に入った。
それからの僕の絵は、明るい色彩の絵に姿を変えた。振り返れば、この時に絵と一緒に僕自身も大きく変化したのだと思う。やっと先生の、トゲがあるように思えて、実は優しさのある言葉を素直な気持ちで聞けるようになった。そして少しずつ感じたことを行動として表せるようになったと思う。
先生は、僕たちが絵を描いている時に、いろいろな話をしてくださる。トイレ掃除の話から、現在の日本の話まで、話題はさまざまで深い内容だった。時には優しい口調で、時には厳しい口調で話される。先生の話の中で僕は普段は考えないような人間の素晴らしさや、その裏にある弱い部分などを感じ取ることができた。
芸術にあまり詳しくない僕でも、油絵は時間をかけて、絵の具を塗れば塗るほど味が出てくるということを実感できた。そして先生がいつかおっしゃった「絵は人生だ」という言葉に「人間はいろいろな経験をつんで美しくなっていくものなのだ」という自分なりの答えにたどりつけた。
僕の絵が他の人の目にどう映るかは分からない。でも僕にとってこの絵は、美術の授業を通して、先生から教わったこと、それに対して自分が感じたことがたくさん塗りこまれている大切な絵だ。先生の話を聞きながら絵を描いてきて、僕は一生ものの勉強をすることができた。今後は、その美術の時間で学んだことをいかして人生を歩んでいきたい。また、先生もおっしゃっていたように、芸術はいくつになっても楽しめると思う。いつかまた時間を見つけて油絵を描きたいと思う。