34 前田晋乃介
自画像一年間と向き合って描いてきた。「鏡も用意せずに、どうやって自画像を描くというんだ。鏡に映る自分の姿をしっかりと見つめて、心の中で闘いながら描け」と先生は言う。自画像とはもちろん自分を描くわけだが、その絵にはその人の内面が出るという。
私の絵はどうしても薄っぺらいものになってしまっていた。表面の見た目だけをきれいに塗って、自分ではそれがきれいでいいものだと思っていた。だから先生が「厚く、絵の具をたっぷり使って描け」と言っても、初めのうちはやろうとしなかった。絵がぐちゃぐちゃになってしまうのを恐れていたからだ。だが、隣に座る友達や周りの生徒に影響され、ナイフ、大きな平筆を使って少しずつ絵に立ち向かっていった。
先生は「絵を壊していけ。」と言う。何事も殻を破っていかなければいけない。そうして絵の具はだんだんと厚くなり色は重なり本当に「いいなぁ」と思えるようになった。今この自画像を見ると一年間の自身の過程が見えてくる。
始めの方は正直なところをいうと小牧幹先生はとても変わった方だなと思っていた。例えば、「挨拶をしても返事もできない奴がいるだろう、そんな人間は駄目だ」と、他の先生まで判断をする。「歴史と伝統のある学校の生徒としてもっと風格を持て」などとも言う。先生はこの学校の卒業生ではない。だのに、熱く語る。現代の日本は変わってきた、子供が平気で親を殺す時代だとも。だからこそ先生は美術を通して熱く、情熱をもって語ってくれたのだと思う。本当の知識人になれるように。「本物がわかる人間」になれるように。
先生の話はまるで坊さんの説法だった。授業を受けていく中で叱られて嫌になってしまう人もいるようだが、私は一年間楽しくできた。それでも絵がうまくいかず嫌な日もあった。そうやってできた自画像。今の自分だとはっきりわかる。美術をとってよかった、そうでなければ油絵は一生やらなかっただろうし、美術館に行くこともなかっただろうと思う。先生の話を聞かなかったら風格だとか現代っ子がどうだとか気にも留めなかったに違いない。うわべだけでなく本物のわかる人間になりたい。教わった、「夢と勇気と、Someマネー」を忘れまい。