35 佐藤多恵
私にとってこの自画像は、自分と向きあうことの良さを教えてくれた大切な絵です。自画像を描くまで、私は本当の自分というものを全く分かっていませんでした。分かったふりをしていただけだったのです。自画像にかけた長期にわたる時間が、間抜けで、怠けている自分に気づかせてくれました。
私は初め、一面に緑一色を塗り重ねていました。自分に合う色は緑だ、と決め付けていたのです。しかし、ただ塗り重ねるだけの時間が過ぎていくうち、どう描いていいのか全く分からなくなってしまいました。私はきっとこの時、出口のない暗闇の世界へと突き進んでいたのでしょう。そんな私を、明るい世界へと導いてくれたのが、先生が行く機会を与えてくださった日展でした。そこで多くのカラフルで力強く、美しい作品に触れ、一色にこだわる必要なんてないことを学びました。これをきっかけにして、それまで一色だった絵にさまざまな色を加えていこうと思ったのです。ただ、これまで描いてきた緑の絵に、緑とはかけ離れた色を使うのは抵抗がありました。それでも、多くの色を使うことができたのは、多少の勇気が自分の中に生まれたからでしょう。勇気を持って加えた新たな色は、前に塗った色に重なって、きれいでした。
絵は人生です。失敗もあれば、成功もあります。また、勇気を出すことや、周りとの調和の大切さを教えてくれます。自画像を描く前の私は、いつも勇気を出せずにいました。他人と違うことをするのが怖かったのです。自画像を描き終えた今の私は、勇気を出して、他人と違うことをすることが、自分を成功へと導いていくのだと思うようになりました。そして、そのことが、人生を生きていくことなのだと知りました。
翼工房の時の流れは、勉強をするためだけの教室の時の流れとは違っています。翼工房に行くたび、私は大きな収穫を得ることができました。その収穫は一時的に役立つようなものではなく、私の人生に生涯必要なものばかりでした。美術を選択していて本当に良かったです。自画像を描くという素晴らしい体験をさせてくれた先生に感謝しています。ありがとうございました。