39 永井香帆
シェイクスピアに、「ソネット24番」というラブソングがあります。その冒頭に、「僕の目は画家を演じ、君の美しさを形にして僕のカンバスにとどめる。そして、絵は最高級の画家が作り出すパスペクティブ(うつし鏡)」とあります。もちろん、この詩の中心は愛であり、絵の方ではありませんが、私は小牧先生の授業中、毎日のようにこの詩を思い出し、このパスペクティブ、つまり「鏡こそが翼工房のメインテーマ」であるように感じていました。鏡で見た自分を描こうとすればするほど、絵は自分から離れていき、絡まった糸のようになるのに、いつの間にか絵には自分の中身が、それこそパスペクティブのように表れていて、つまり、鏡に写った自分で解せないまま絵には自分が現れ、自分を知らないのは自分だけである、という皮肉な事実にも気がつきました。
初めの頃、私は赤い絵にしようと思っていました。しかし、つまらなくなり、次は緑、そして次は黄色。そのようなことを繰り返し、結局どの色でも満足できませんでした。自分が何色なのか分からなかったのです。鏡を覗き込み、じっと見る。見えているのに見えなくて、この作業が授業で最も大切な気がしました。そのように悩む中、11月の初めの頃、ふと思いつき、一高のホームページで昨年の先輩方の絵を見ました。そこには同じ部活の先輩である戸田先輩の絵がありました。私はその絵を見て、大きな衝撃を受けました。その絵はまさに先輩そのもので、とても自由でした。「何色にすればいいか分からないのなら、全部の色を使えばいいじゃないか。もっと自由に、もっと自分の好きなように描いていいじゃないか」と思うようになりました。
それからは、その時の気分の色で、好きなところに好きなように描きました。とても楽しかったです。1つ分かりました。私は1つの色や描き方に固執するのが嫌いだったのです。自由に描くのが好きでした。自由が好きでした。だから、自分が何色なのか分からなかったのかもしれません。
私は九州の田舎から勉強がしたくて関東に来ました。正直、「一高はこんなものか」と多少失望しているところがありました。しかし、一高にも先生のように生徒を信じて教鞭を執る方がいらっしゃったことで、わざわざここまで来た甲斐もあったかな、と少し嬉しいです。1年間、ありがとうございました。私に翼とパスペクティブを授けて下さりとても感謝しています。