5 竹中 光
翼工房で描いた自画像からさまざまなことを学んだ。今までこれほど真剣に鏡を見て自分を描いたことはなかった。中学校の美術の時間でも自画像を描いたが、翼工房での自画像はその時とは何もかもが違っていた。絵にかけた時間と絵の具も比べものにならなかった。中学での絵は、鉛筆で描いた後、一通り色をつければそれで完成だった。色もそれほど混ぜたりしなかった。まさに「塗り絵」だった。
しかし、翼工房で小牧先生の指導を受けているうちに、自分の絵はとても「薄っぺら」と感じるようになった。描き始めたばかりの頃は、授業の最初と最後では、あまり変化が見られなかった。なぜなら、ひと通り塗った絵を「壊す」のが恐かったからだ。壊したら、今までやってきたことが無駄になってしまう、そんな気がしてならなかった。しかし、何回か授業を続けるうちに、だんだん何かが分かってきた気がした。それは、「壊す」ことは「マイナス」ではなく「プラス」であるということだ。破壊と創造を繰り返すことによって、絵がより厚みを増すということに気づいてきた。色もいろいろ使うようになってきた。始めはパレットの上にずっと残っているような色もあったが、混ぜたりして使うようになった。自分でいろいろと試行錯誤して作った色は、適当に混ぜた色よりも絵によく馴染んでいるように感じられた。
絵を描いていて、少しずつ自分の思うように進んでいく時は楽しい気持ちになれたが、そうでない時はとても辛かった。絵に行き詰ったら、鏡の中から必死でヒントを探した。自分を描くのだから、ヒントは鏡の中にしかないと、先生に教えていただいたからだ。先輩の絵を見た時は、自分との差を痛感した。先輩達の絵は、どれも個性あふれる作品だった。僕も、自分らしさのある絵を描きたいと思った。そのためには、やはり鏡の中の自分をよく見るしかないと思った。
一生懸命描いているうちに、自画像と向き合う時間も残りわずかとなったが、絵は、最初の頃と比べてずっと自分らしいものになっていることに気づいた。また、自分を見つめ続けたことに対する自信も出てきた。自画像を描いて自分を見つめ直す機会を得られて本当に良かったと思う。この翼工房で、数学や英語の授業では決して得ることのできない大切なことを勉強することができたと思う。これからもここで学んだことを忘れずに生きていきたい。そして、この自画像とその思い出を一生の宝物にしたい。