6 吉沼孝夫
思えば、僕がこの翼工房にやって来たのは4月のこと。以来、静物画や自分の親の顔を描き、そして、約半年という長い間自画像を描いてきた。
僕にとっての、自画像の作成は本当の意味で自分と向き合うことだった。まず、僕がひとつ感じたことは、これまで自分が、どれほど自分のことを直視しなかったのかということだ。そしてもうひとつ、先生が常々おっしゃっていた『自分を壊す』ということがどうしても出せず、常に保守的で、先の見通せないことに手を出せず逃げてしまう自分に気がついた。
普段の生活ではそんなことは絶対に気づくことはなかったと思う。自分を見つめるどころか、たった一枚の自画像からさえも逃げ出してしまっていた自分がそこにはいた。鏡と向き合う機会なんてない世界に生きてきた。自分の現実と向き合わずに、表面的な自分の姿だけを周囲に見せ、前に進もうとしない、そんな生活をしていた自分がいることに否が応でも気づかされたのだ。「情けない」と思った。
自画像とはまさに『自分探しの旅』だった。たった一枚の絵に自分の内面がハッキリと映し出される。それがなんとなく分かると少しずつでも絵は変わった。それと同時に、描くことが楽しくなった。
これからが本番であるこの先の人生、果たしてそのときも自分が見つめられるかどうか不安ではある。しかし、大切なのは、自分とまっすぐに向き合い、少しでも前に進もうという姿勢だ。僕は翼工房で得た『知恵』をこれからの生活で生かしていきたいと思う。『向こうの教室で知識を、ここでは知恵を掘り起こせ。両方の翼がないとうまく空を飛ぶことは出来ない』。少々省略はしてしまったが、先生が始めに教えてくださったこの言葉を忘れず、机上の知識だけで生きる様な真似をせずに生きていきたいと思う。