7 加藤 ちえ美

 私にとって、自画像を描いてきたこの期間はとても充実したものだった。
 自分と向き合うということを目標として描き始めた自画像だったが、その意味を簡単に理解することは出来なかった、それどころか、真新しいキャンバスに描くのは、なぜかとても不安で、新しいことをはじめることを拒んでいる自分を見た。私は初めからとても神経質だったかもしれない。授業を重ねていくうちに一通り出来上がってくる薄い自画像。毎回毎回、それを壊さないように、ただ塗っていた。壊すのが怖かった。
そんな頃、ある日の授業で先生がこうおっしゃった、「壊して新しく再構築しないとより深いものをつくりあげることはできない、壊すことを恐れるな」と。いろいろなお言葉の中でも特に私に衝撃を与えるものだった。今まで作り上げてきたものを壊せる勇気を持つ、そのことがよりよいものを創るという意味だと判断した。そしてこのことは、ふだんの生活、これからくる未来、どの場面でも言えることだと思った。
 それからの私は美術のときは気が楽になって、落ち着いて自画像を描くことが出来たように思う。そして、この時間はどこか、誰も行ったこともないところへ旅にでかけるような、そんな楽しい気分になった。いろんな色をつかって、三十時間もの長い時間を自分だけのひとつのものを創りあげる。ときには何をしたらいいかわからなくなったり、上手くいったところはそれ以上変えたくはないと思った。そういうことを乗り越えて、私は自分の中の弱い部分を壊し、再構築をし続けることが出来たと思う。もちろんどちらも完璧ではない。だけど長い時間をかけてたくさんのことを学びながら創り上げることができた、この自画像は私の大好きな作品となった。
 私が翼工房で過ごした数十時間は、私がこれから生きるだろう長い人生の中で、ほんの一瞬のとても小さな一コマにすぎないだろう。だけど、思い出しては光る、私の今後の人生をよりよいものにしてくれる大切な時間になったと思う。