8 宮内陽平

「絵を見れば描いた人のことはわかる」これは小牧先生が美術の授業の際にしばしばおっしゃることだ。僕は先生がそうおっしゃったときに、たかが僕が描く自画像ごときで僕のことが分かるはずがないと思っていた。そして自画像を描き始めた。
僕は鏡に映る自分を描いたふりをしていた。顔は肌色だという“固定観念によって描かれた”画面の僕は完全に空間から孤立していた。そんな僕に先生はアドバイスをしてくださった。だが僕ときたら、そのアドバイスを素直に受け入れることができず、“なんとなく描き”続けていた。ある日、「お前の絵を見ていると頭にくるよ!」と先生はおっしゃった。僕にとってその一言は衝撃的だった。本気でやって認めてもらおう、僕はそう思った。それから僕はたくさんの色を使うようになった。上辺だけの自分でなく、もっと真髄に迫っていった。
そんな僕にチャンスが舞い降りた。僕は自転車で先生の絵を見るために上野の美術館まで行くという形でそのチャンスをものにした。自転車で東京まで行くということ自体はたいしたことじゃないかもしれないが、あのときに、先生と約束をしてのあの行動は僕にとって何物にも変えることの出来ない、『一生ものの勉強』そのものだった。このようなチャンスを提供してくださった先生には心から感謝している。
この出来事を境に僕の自画像に対する思いはいっそう強まった。僕はとても輝いていただろう。美術の授業のたびに僕の自画像は変化をしていった。それは僕が授業の度に違うことを考えていたからだと思う。僕の考えていることが知らず知らずのうちに画面に現れる。だから僕の絵は変わっていったのだ。僕が生き続ける限り、僕の自画像に終わりはないかもしれない。破壊と創造を繰り返して真実の僕に近づいていくこの自画像は僕が成長しても僕のことを見守ってくれるだろう。
この時期に、自画像を通して、こんなにも自分自身を探るとは思わなかった。しかし自分を見つめなおすということはまさしく『一生ものの勉強』であり、一番大切なことだと思った。