9 山崎理沙

私が芸術の選択で美術を選んだ理由は、ただ「絵を描くことが好き」ということだけでした。もっとも、それも中学校で美術の授業で描いた絵や、部活動で描いたポスターというくらいで、本格的にキャンバスに向かい合い、数十時間をかけて、少しずつ絵の具をのせていくという経験はありませんでした。そういった意味では、私は少し「美術」を甘く考えていたのかもしれません。特に自画像など、人間の肌を実際とはかけ離れた色で表現することなど考えられなかったくらいです。そうした臆病な考え方が、先生のおっしゃる「思い切れない」性格をよく表していると思います。しかし、そんな私の絵に対する姿勢も、三十時間を通して少しですが変った気がします。
 私は最初まず、色はただ鏡に忠実に塗ろうと思っていました。しかし、先生の授業を受けていくにつれそれではいけないとわかってきたのです。そこで、背景を描き直してみることにしました。それまでは、赤い「本」と「時計」をいくつか描いていたのですがそれらを黒で消しました。もちろん私にもある程度考えがあって描いたものでしたが、先生のご指導を聞くうちに、必要のない、むしろ邪魔な気がしてきてからです。
 次に変えたのは色の塗り方でした。これは、いろいろな色の塗り方を試しました。二色で塗り分けたり、色を混ぜてみたり・・・その度に、うまくいかずやり直し、また違うやり方を考えました。
 これらを繰り返した結果、最初考えたものとは大分違う絵になってしまいましたが、私はそのことに満足しています。これだけの時間をかけ、自分の姿と向き合い、いろいろなことを考えて絵を描いたのは初めてでした。絵によって何かを表現するということがとても難しいことだということも実感しました。これから自分の進む道を真剣に考えなければならないこの時期に、こういった貴重な経験をさせてもらえたことに感謝したいと思います。ありがとうございました。